体験利用としての通所初日は、このセンター長が母を担当することになった。
主治医からの診療情報提供書には、現症についてパーキンソン病以外に変形性膝関節症の
記載があり、転倒骨折、両下肢の筋力低下、痛み、の項目などにもチェックが入っている。
パーキンソン病自体は痛みを伴う病気ではないので<痛み>の中心は右大腿部にあり、
まだ完全ではないことを重点に、私が骨折から今日までの経緯を改めて説明し直すと、
センター長は母を椅子に座らせ、左右の大腿部の太さや筋肉の状態の確認を開始した。
肉離れで左より細くなった右がこの時、また太くなり始めていて、
「右足には筋肉がついてきている、むしろ今は左よりも太い」と。
さらに「骨折した左足を庇う癖がついているのではないか」とも。
すると母が「あまり強く力を入れすぎないで、マッサージのような揉み解しの行為は、
まだ医者からも止められているので」などと言っている。見ると確かに、母の右腿に
巻かれたセンター長の両手が、じんわりと揉み解しを行っているように私にも映った。
私には3歳違いの弟がいる。弟はその道一筋の鍼灸マッサージ師で、実家帰省の折は、
両親へのマッサージを常としていたが、母の肉離れ以降はそれも控え、私に対しても
「診察の際は、医者にマッサージの可否も確認しておくように」と用心を意識付けた。
マッサージの感触を熟知している母は、センター長の手から伝わる力をその類と感じ、
忠告を入れたようだった。
「右足への圧迫はまだ禁物」医者からの忠告を私も補足したところ、センター長からは
「負担を掛けている右足にコリがある、原因は血流の滞りで、そのままにしておくのは
良くない、大丈夫、右足は強くなってきていますよ」という返答。
それから、専用器具を用いてメニューを一通り体験していくことに。そして、一つのメニューを
終える度に、センター長の両手を母の右腿に巻く行為が繰り返され、またその度、神経質そうに
母からの「力を入れすぎないで」と忠告を入れる場面が繰り返されていった。
肉離れで約半年苦闘し、難病指定を受けた老人が、新規介護施設の責任者となり意気込む若者に
身を託すことになった。その二人には絶対的に違う心拍数というか、温度差のようなものがあり、
母は本能的にそれを感知し、警戒している様子だった。
この体験で問題かなければ二日後からは正式利用となり、週二回の通所が始まることになる。
「母がこれだけ慎重になるのは、本当に痛い思いをしてきたからなのです」と私は付け足し、
理学療法士としてのセンター長の処置を見守っていた。
カナカナや病院にある開かずの窓